2024/03/08
日本の口腔がん死亡者数は最新の情報(R4年厚労省人口動態調査死亡者統計)によると、年間8500人を超え増加傾向に歯止めがかかりません。30年前は4000人ほど、数年前までは6000人台だったのに異常というほかありません。原因の多くは一般歯科医院で口腔粘膜の診査が適切に行われていないことにあり、その結果進行がんになって初めて発見されることになり、残念な結果を招くと思っています。
口腔がんはその進行度によってステージⅠ~Ⅳ分けられますが、実際にはステージⅢまたはⅣの進行がんになって発見されることが日本では多いのです。
進行がんになってからでは生存率は大きく下がってしまいますし、手術が成功したとしてもその手術範囲は大きなものとなり、顔貌や咀嚼・発音などに深刻な影響を及ぼします。すべてのがんの中で患者自殺率の最も高いがんは口腔がんであるという報告もあり、進行した口腔がんの場合手術が成功すればすべて良しというわけでもないのが厳しい現実です。一方、ステージⅠで見つかった場合の5年生存率は95%を超えますし、手術範囲も口腔内だけにとどまり深刻な後遺症もまずありません。
やはり早期発見がすべてなのです。
そこで今回は当院で2024年に経験した舌がん症例の中で、蛍光観察と口腔細胞診が早期発見に特に有用だった症例についてご紹介します。
50代男性 3か月前ぐらいから舌の口内炎が治らない、ということで来院されました。
診ると舌の下面に小さな(8×5㎜)白色の病変があり(写真黒線で囲んだところ)、一見すると口内炎に見えないこともない。痛くないが治らないとのこと。すでにかかりつけ歯科医、別の口腔外科を標榜している開業歯科医院、耳鼻科開業医を受診するも、いずれも「様子を見ましょう」ということになったそうです。しかし、「なぜ経過観察でいいのか」「どれぐらいの期間経過観察なのか」「経過観察の後どうするのか」の説明はなかったということで、心配になり当院受診されました。
3か月一度も治らない口内炎はあり得ません。また拡大鏡を用いて詳細に観察すると、口内炎の時のようなクレーター状をしていません。そうです、よくあるアフター性口内炎は中央が白くへこみ周囲がやや隆起したクレーター形状をしているのです。
そこでORALOOKという蛍光観察機器を使用して検査すると、やはり蛍光ロスという陽性所見です。続いて口腔細胞診を実施、私が採取した検体を大学病院病理検査部に送付し、こちらも「要注意・要精密検査」でした。すぐに基幹病院に紹介し手術が行われ、ステージⅠの舌癌の確定診断のもと部分切除術となりましたが、幸いにもステージⅠで見つけることが出来ましたので、手術範囲も小さくて済み4日間で退院となりました。今ではステージⅠの5年生存率(がんでは5年が完治したと判断される期間です)が95%を超える時代ですので、まず安心してよいと思っています。一方でステージⅢなら65%Ⅳなら45%と一気に下がってしまいます。やはり早期発見がすべてです。